篠原健太『彼方のアストラ』はSF苦手でも読めて5巻でまとまってる良品

彼方のアストラ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

以前から「面白い」「傑作!」と噂を聞いていた『彼方のアストラ』を読んでみました。最終巻までまとめ買いして一気に読み終えて読後は満足の一言。ぜひ紹介したいと思います。

『彼方のアストラ』あらすじ

宇宙との行き来が当たり前になった2063年。高校生のカナタら9名を乗せた宇宙船は“惑星キャンプ”のため目的地の星に旅立つ。初めての宇宙旅行に胸をときめかす少年少女たちにとって、この旅はひと夏の少し変わった思い出になるはずだった。

しかし、到着した惑星で謎の光る球体に飲み込まれたことにより、一行は5000光年離れた宇宙に飛ばされてしまう。運良く生き延びた彼らは宇宙船アストラ号を操って家に帰ろうとするのだった。

『彼方のアストラ』登場人物

惑星をめぐるロードムービー

命からがらアストラ号に乗り込んだカナタたちですが、食料も水も不足しており、到底このままでは5000光年先まで航海できないと悟ります。そこで一旦は絶望するのですが、アリエスの閃きにより水や食料のある惑星を経由しながら、物資を補給しつつ帰る航路を見つけ出します。

彼らが降り立つ惑星は人類の手が入っていない未開の星ばかり。その生態や環境に驚きながら、時に危ない目にも遭いつつ、単なる同乗者だった一行は友だちになり、血よりも濃いもので結ばれた家族になっていきます。

その過程で少年少女たちの抱える葛藤や苦難、過去の事情などが語られますが、仲間の力を借りながら乗り越えて行く姿は王道の少年漫画です。

刺客の正体や動機を探るミステリ仕立て

シナリオの世界には『セントラルクエスチョン』という用語があります。これは物語の中心的な問いのことです。たとえば映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なら、過去に飛ばされた主人公は未来に帰れるのかがセントラルクエスチョンになります。

セントラルクエスチョンは物語を駆動する謎として機能し、最後に『YES/NO』の判定が下ります。ただし、短編ならいざしらず、長編作品をセントラルクエスチョン一本だけで駆け抜けるのは難しく、大抵の作家は他のエンジンも積み込んで結末へと向かう旅に出ます。

『彼方のアストラ』の場合で見ると、少年少女たちが5000光年の旅路の果てに家に戻れるかがセントラルクエスチョンであり、その周囲に「光る球体の謎」「アストラ号の通信装置を破壊した刺客の正体と動機」「一見すると無作為に選ばれたように見える彼らの共通点」という謎が散りばめられています。

PixxlTeufel / Pixabay

この謎の配分や伏線の張り方、回収の手際が見事なんです。あまり細かく言うとネタバレになってしまいますが、登場人物のキャラを立てるために言ったと思われた何気ないセリフが物語の根幹に関わってきたり、少年少女たちの成長に資するためと思われたエピソードが後に世界の裏側を暴いてしまったり。

単行本5冊でまとめた手際が秀逸

コミックスの幕間や後書きを読むと、著者は『SKET DANCE』完結後にまったく毛色の違う作品を書きたいと思い、前作の舞台から大きく離れた宇宙SFに手を出したのだそう。当初の予定ではもっと長大な物語を想定していたが、短期集中連載の形を取ることが決まり要素を削っていったのだとか。これが結果として奏功したように思います。

本来は主要登場人物も15人いたところを9人に縮小。リーダーの失脚により当初は目立たなかったカナタがキャプテンに就任し、徐々に成長していくといったストーリーも予定していたそうですが、それもなしになりました。

密室空間の中でのサバイバル物は多くがギスギスした空気になり、言い争いが起こったりします。物語に緊張状態を与える意味もあります。しかし『彼方のアストラ』では、刺客の正体をめぐって疑心暗鬼に陥るシーンもあるにはあるものの、すぐにコメディ的な空気に変わります。それでいて緊張感は失わないのが素晴らしい。

本作は宇宙SFに謎解き、少年少女たちの成長と恋、世界の謎、テクノロジーと倫理の問題などが絡み合い、実は複雑な物語です。それでありながら全体を貫く背骨は疑いなく少年漫画であり、この種のジャンルに不慣れな読者でもカナタたちの冒険にワクワクしながら、彼らの行く末を見守っているうちに完結までたどり着くでしょう。旅を通じて強くなった彼らがすべての秘密を乗り越え、自分の生き方を選択し、未来に向かって歩いて行くストーリーラインが明確なのでオススメできます。

これを単行本5巻で描ききったのは本当にすごいなと思います。10巻とか15巻とか掛けて描く人はいても、5巻にまとめて読後感も損なわないのは稀有だなと感じました。

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