漫画

名作WEB漫画『FANTASIA』を電子の海からサルベージ

本を読んで泣く男性

最近は新しい作品だけじゃなく古い作品も読み返してます。その流れで商業版『12時の権力者』を再読しました。

もともとは作者が自身のサイトで連載していたWEB漫画です。2000年代中頃までは自サイトに長編漫画を載せる作家さんが多く、アニメ化された『WORKING!』の高津カリノさんや、『恋愛ラボ』の宮原るりさんもWEBで漫画を更新していました。私もリアルタイムで読んでた読者のひとりです。

最近だとpixivやTwitterのようなプラットフォームがあり、そっちでやったほうがより読者の目に留まりやすい、個人でサイトを作成・管理する手間がかからず、作品を描くことに専念できるなどの理由から発表媒体が移行してきてますね。

商業版『12時の権力者』は、WEB版にあったサブキャラクターのエピソードや小ネタをバッサリ切り落とし、主人公とヒロインのストーリーに焦点を絞って再構成した内容が不評で、これからクライマックス! な展開に差し掛かったまま何年も続きが出ていません。

電子コミック販売サイトでは4巻に(完)とか「最終巻」とか付けて販売してますが、内容は全然完結してない、むしろピンチに陥った主人公と安否不明なヒロインの逆転劇が始まるぞというところで唐突に途切れてます。

12時の権力者(完結) - 漫画(マンガ)・電子書籍 | BookLive!

WEB版も「続きは商業版で」な状態で更新停止しており、あれだけ人気あった作品にしては締まらない終わり方です。

不死の魔術師ギュデオンと幼い姫君の物語『FANTASIA』

昔を懐かしみながら愚痴っぽい話も出てしまいましたが、今回の本題は『12時の権力者』ではなく、同時期にWEBで連載されていた漫画『FANTASIA』です。

WEB漫画サイト奇妙な卵に掲載されていたもので、大きな括りで言うと「魔術大全シリーズ」の一作です。往時を知る読者は懐かしいと感じるんじゃないでしょうか。

「魔術大全」は不老の魔術師ギュデオン・ギタを主人公としたシリーズで、全7作から構成されていますが、その中でも1番人気だったエピソードが『FANTASIA』。

簡単に内容を書き出すと以下のとおり。

『FANTASIA』あらすじ

不老の魔術師と美姫の伝説に隠された真実

ある田舎の領主にシェラザードという娘がおり、それはそれは大変な美姫として有名でした。その美しさは天女のようと称えられ、数々の悪評を持つ魔術師ギュデオン・ギタさえも彼女の虜となったと言い伝えられています。

……しかし、このお話は長い年月と人々の思い込みが作り出したもので、実際とは違っていました。ギュデオンは当時のことを思い出しながら語り始めます。彼が本当に長く慈しみ、見守っていたのはシェラザードではなく、その妹姫のアルマリックだったのです。

偶然から出会ったギュデオンを伝説の魔術師だと信じられないアルは、それなら証明してみろと彼に言います。

来年の今日、またここに来い。その先もずっと同じ日に通い続けろ。毎年わたしとお前が会い続けて、自分が成長するのにギュデオンは変化なかったら、伝説の魔術師と認めてやる。

奇妙な卵 FANTASIA

美しい姉と比べられ平凡な姫君と噂されるアルですが、しょせん人の美醜など皮一枚のこと、10年も経てば無意味と考えるギュデオンは妹姫の人柄のほうを好ましく思います。

このときアルは6歳。2人の長い、長い交流が始まった夜でした。

ギュデオンとアルマリックの時間はズレていく

子供の突拍子もない一方的な思いつきから始まった年に一回の訪問をアルは楽しみにし、ギュデオンのためにお菓子とお茶を準備してやるのが慣習になります。

ギュデオンもアルと会うことを楽しみにし、彼女の頼みでシェラザードの結婚式に祝福を施してやりました。このときの様子が「悪い魔術師ギュデオンも惚れたシェラザード姫の美貌」として伝説化され、後の世まで長く語り継がれたのです。

やがてアルも結婚し、子供を産み、大人の女性から年老いた老婦人へと移っていきます。それでもギュデオンは出会ったころと変わらず若々しいまま。彼の時間は止まっているのです。

アルマリックの墓前で慟哭するギュデオン

アルが自分を残して逝ってしまったあと、領主の霊廟を訪ねるギュデオンの姿がありました。降嫁して嫁いだ第2姫は領主家の霊廟には入れない、ここには名前だけが刻まれていると案内人に説明され、存在の軽んじられ方に「相変わらず姉とはえらい差だ」とギュデオンはつぶやきます。

ひとりになったギュデオンは霊廟の前に跪き、アルのために辺り一面が埋まるほどの花を出してやります。

季節外れの花に満たされた墓地でギュデオンは、何度経験しても慣れない離別の痛みに涙し、もし自分が普通の人間だったらと長く秘めてきた想いを口にするのです。

「当たり前の普通の人生を生きてたら、俺は――お前のような子供が欲しかった」

ギュデオンが立ち去ったあと、人々は咲くはずのない花に彩られた霊廟を見て、これは伝説の魔術師ギュデオンがシェラザード姫のために出したに違いないと噂します。

生前も、亡くなってからも「絶世の美女を姉に持つ平凡な妹姫」でしかないアルですが、ギュデオンだけは悠久の時を越えて彼女のことを愛し続けているのです。




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掲載サイト「奇妙な卵」は2006年に閉鎖

153ページある漫画の内容を駆け足で説明してきました。不老の魔術師と幼い姫君の交流はベタな設定と言えばベタな設定ですが、アルマリックのキャラクターが良く、切なさを盛り上げるための小道具使いや演出も良かったです。

残念なことに掲載サイト「奇妙な卵」は2006年に閉鎖されてしまい、現在は『FANTASIA』を読むことができません。

限定的に忍者ホームページに残っていますが、こちらで掲載されているのはギュデオンの弟子になった少年を主人公にした「初級魔術入門シリーズ」ですね。

こちらも2010年の活動休止宣言を最後に更新されていません。

Web archiveから『FANTASIA』をサルベージ

もう読めないと思うと余計に再読したくなるものです。そんなときはインターネットの情報を収集して残しているweb.archive.orgを漁ります。

「魔術大全 奇妙な卵」で検索すると古いリンク集が引っかかったので、ここで得た奇妙な卵のURLをWeb archiveで検索。

出た!

漫画の掲載ページもアーカイブされています。中間の何ページかと、結末に向かう大事な20ページほどが抜けてるのは残念。初めて読む人はそこが重要でしょ! と感じるかも。

それでも100ページ以上は残ってます。全体的な話の流れと雰囲気は感じられるでしょう。

久しぶりに読んだら作品の内容そのものはもちろん、これを読んでた14、5年前の自分の状況を思い出して胸にくるものがありました。戻りたいかと言われたらノーサンキューな人生低空飛行期だったけど、それでも懐かしいと感じるから不思議。

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