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アニメ『ハチナイ』を見ながら「物語のトンネル」問題について考える

八月のシンデレラナイン_有原翼

やっとアニメ『八月のシンデレラナイン(ハチナイ)』第1話を見た。Twitterの話題が野球とアニメと酒で占められてるおじさんなので、野球アニメは見ねばと思いつつ伸ばし伸ばしになっていた。

今回もdアニメストアさんのお世話になりました。毎度dアニメストアさんには感謝です。みんなもアニメ見るならdアニメストア!

(これくらいヨイショしとけばいいですか? ドコモさん)

と言いながらAmazonプライム・ビデオのリンクを貼る。

冒頭から試合シーンが止め絵の連続、その後も予算が厳しくて動画に枚数をかけられないのかストップモーションが多く、必然的にキャラの顔に寄ったアップショットで心情を伝える説明帳な画面にならざるを得ないのが苦しいと言えば苦しかった。

それでも初めて野球に触れた少女たちのドキドキワクワク感はあったし、彼女たちのなかで有原翼が中心人物になっていく行動力やカリスマ性があることも示せていたと思う。

そして『八月のシンデレラナイン』第1話では、物語のトンネルで先を照らすための懐中電灯が置かれていた。

物語のトンネルとは

少し前に「物語のトンネル」という言葉が話題になった。掻い摘んで説明するなら先の見えない物語に耐えられない、結末でカタルシスを得るために主人公が試練を受ける、陰惨なシーンが挿入されるといった物語構造に耐性がない人のことを指す。

私は、漫画や映画に限らず、「先の展開が予測できない」ことを好んで楽しむタイプだ。だから、本当に楽しみにしている映画は予告もほとんど見ずに臨むし、何ならネットも断つ。事前に情報を仕入れず、その物語がどう転ぶかに一喜一憂したいと思っている。だから、終わってみれば、「あそこ辺りまでが『トンネル』だったな」、となることが多い。もちろん、「トンネル」への誘導が拙い作品もあれば、最後まで出口が無い場合もある。それはそれで一興だ。

しかし嫁さんのようなタイプは、「トンネル」を通るのがそもそも苦手であり、どうせ通るのであればせめて、明るい出口を保証してもらって、事前に安心したいのだろう。だから、例えば一緒に映画を観ていると(私が事前に映画館で観て面白かった作品を一緒に観ることが多い)、彼女はよく「これ大丈夫だよね?」「主人公死なないよね?」「この人たち助かるよね?」と途中で聞いてくるのだ。

私にとってみれば、「そこ」が分からないこその、翻弄される心の動きが面白さなのに、彼女は「そこ」を先に知りたがる。今通っている「トンネル」、それだけでも苦手なんだけど、まさか出口が無いとかないよね? 大丈夫だよね? と、おそらくこういうことなのだ。
物語の「トンネル」を通りたくない人は意外と多いのかもしれない – ジゴワットレポート

この方のように「ストレスを我慢するに値するだけのカタルシスが、トンネルの出口に用意されてると最初に保証してもらいたい人」は、昨日今日で急に現れたわけではなく、昔から一定数いた。だからこそ創作者たちは、そうした人たちにも最後まで作品に付き合ってもらうため、それぞれに工夫してきたのである。

今回は「物語のトンネル」を照らすために創作者が行う工夫を二例紹介しよう。

最初のエピソードで全体の構造を見せる

八月のシンデレラナイン_宇喜多茜

連載漫画や、あるいは海外ドラマの第1話(パイロット版)に見られる。第1話は読み切りの形にして事件の発端、主人公の登場、展開、盛り上がり、解決といった一連の工程を一気に見せてしまう。そのことによって「これから先も陰惨な事件が起こったり、主人公が困ったことになったりするけど、最終的にはこんな感じで解決します」と読者に示すのだ。

名作漫画『鋼の錬金術師』の最初のエピソードを思い浮かべてみよう。

あそこで描かれたのは旅する兄弟、賢者の石、禁忌の人体錬成、兄弟が巻き込まれた騒動、バトル、騒動を解決した兄弟は次の旅に出るといった、その後もシリーズを通して描かれる構造やモチーフの縮小版だ。

正確に言うと『鋼の錬金術師』は最初のエピソードを前後編の2話にしている。

これは最近だと、いわゆる小説家になろうの「なろう系」によくあって、達者な作者ほど冒頭で主人公のチートっぷりを明示して「今後なんやかんやあるかも知れないけど、主人公はチートで解決するから安心して読んでください」と読者にメッセージを発する

『週刊少年ジャンプ』の連載漫画なんて、だいたいは第1話を読めば読解の補助線が引かれている。

ベタなキャラクターで人物の役割と物語の流れを整理する

八月のシンデレラナイン_野崎夕姫突然パンパカパーンとか言い出しそうなカラーリングと胸部装甲だな

作者はキャラクターを利用して読者に先の展開を保証することもある。それがベタな登場人物を出すことにより、物語の流れていく先をそれとなく受け手に示す方法だ。

たとえば『北斗の拳』に出てくるモヒカン雑魚ども。あいつらが途中で成長して準レギュラークラスまで育ってくるかといったら絶対そんなことはないし、現にモヒカン雑魚はモヒカン雑魚でしかなかった。

出てきた瞬間に「こいつら殺されるために描かれたな」と直感で感じるキャラクターはいる。ホラー映画の冒頭に登場する頭あっぱらぱーなカップルもだね。

そうしたキャラクターを使いながら、ハッキリとは言わないよ、ハッキリとは言わないけど「こいつの行く末なんて想像つくでしょ」と物語の先を受け手へ遠回しに伝えることにより、その先の展開を保証するテクニック。

逆手に取って罠を仕掛ける作者もいるから完全には信用できないが。



『ハチナイ』が仕掛けた能見志保というガイドライン

八月のシンデレラナイン_能見志保

『ハチナイ(八月のシンデレラナイン)』がアニメ化するにあたって、スタッフは新キャラクター能見志保を創り出した。彼女は翼たちが通う学校の生徒会長だが、第1話の最後で女子硬式野球部の活動を認めない方針であると示された。

この既視感たるや凄まじいものがある。我々は何度も「高校生たちの部活物で、最初は反対していた生徒会長が最終的にはメンバーになる」展開を見せられてこなかったか。

野球漫画『ドカベン』の中学生編ですら、最初は岩鬼を目の敵にしていた眼鏡のガリ勉生徒会長が、最後は山田太郎や岩鬼と一緒に野球部で試合に出るのだ。昔話における「約束」が「破られるため」に存在するように、部活動物に登場する「口うるさい生徒会長」は「デレるために存在する」のだよ。

私は原作のゲームアプリを知らないし、ゲーム既プレイ組でもアニオリキャラクターの能見志保は、分からないことが多いだろう。それでも私たちは確信してるんじゃないか?

このキャラは十中八九デレる!

頼む! デレてくれ(願望)。そして能見さんの名前に免じて、フォークが得意な左投げPでいてくれ!

ハチナイ感想リンク
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