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『神様がうそをつく。』心ひりつくボーイ・ミーツ・ガールのネタバレビュー

神様がうそをつく。

ひと夏のボーイ・ミーツ・ガールに必要なのは、花火、祭り、浴衣、そして死体。

今回は尾崎かおり『神様がうそをつく。』の紹介です。小学生の男の子と女の子がひょんなことから仲良くなり、急接近するドキドキの前半から、一転して女の子の抱える重い事情が明かされ逃避行に繋がる結末への流れは巻を措く能わず、最後まで目が離せません。

11歳で、夏で、初恋で、たとえ正しくなくても彼女を守りたいと思った。

『神様がうそをつく。』あらすじ(ネタバレなし)

クラスの女子を敵に回した七尾なつる

年始めに東京から地方の小学校に転校してきた七尾なつるは、クラスで姫と呼ばれる女子・姫川からバレンタインにチョコレートを渡される。しかし「そういうのよく分かんないから」と受け取らず逃げてしまい、姫川をボスとするクラスの女子全員から無視されることに。

姫川に追従する生徒が多いなか、その輪から離れ独特の存在感を放っていたのが、本作のヒロイン・鈴村理生でした。

神様がうそをつく。

鈴村はクラスで一番背が高く、夏休み明けには先生よりも大きくなってるかもと噂される長身。この年代の子にはありがちですね。小学校高学年あたりまでは女子のほうが背は伸びます。

サッカー部の新コーチが無神経でイラッ「かわいそうに」

姫川の告白をスルーしたことでクラスの女子を敵に回したなつるでしたが、彼には大好きなサッカーがあります。女としゃべんなくても生きてけるしと気合を入れてサッカー部に向かいますが、グラウンドには見たことない男性の姿がありました。

坂井と名乗る男性はJFAのコーチライセンスを持っていると紹介され、町内会ボランティアだった前任の岡田コーチより優秀な指導者が来てくれてよかったわねと教師は喜んでいます。

実際に指導を受ける選手たちは、岡田コーチと指導法が違いすぎてついていけないとフラストレーションを溜め、特に母子家庭への無神経な物言いになつるは怒り心頭。

神様が嘘をつく。

このほかにも坂井コーチは、3月生まれのなつるに対し「だから身体が小さくて体力ないんだな。スポーツで早生まれは損なんだよ。かわいそうに」と言葉をかけてしまいます。

神様が嘘をつく。

なつるに向けられた「かわいそうに」は2件とも、なつる本人にはどうしようもできないことですし、自分を通して親まで馬鹿にされた気がして我慢なりませんでした。

帰りの道すがら「岡田コーチのほうがよかった」とボヤくなつるに、チームメイトは「岡田コーチ入院したらしいよ。ガンだって」と教えます。何の気なしに放った一言でしたが、父親をガンで亡くしたなつるは、再び身近な人間がガンで倒れたことにショックを受けます。

捨て猫を拾って理生と急接近

なつるは練習帰りに川で猫を拾って家に連れ帰りました。母親に頼み込んで家で飼えないかと期待しますが、母親の律津子(りつこ)は何を言うまでもなく、なつるが近づいただけで猫アレルギーを起こしてしまいます。

母親に話を切り出せなかったなつるは、猫を抱えて家から飛び出し、理生が弟の勇太といるところに遭遇。

鈴村の家で猫を飼えないかと尋ねるなつるに、理生は「よういくひ(養育費)」で月1000円を要求します。猫のため支払うことにしたなつるは、姉弟たちの買い物を手伝い、理生の家に上がります。

神様が嘘をつく。

鈴村家の秘密その1 幼い兄弟だけの2人暮らし

鈴村家には理生と勇太のほかに人の気配がありません。この家には自分と勇太しかいないと語る理生。小学生だけの2人暮らし。もし世間にバレたらここでは暮らせない。理生はなつるに口外しないよう頼みます。

神様が嘘をつく。

秘密を共有したことで2人の仲がグッと親密になりました。

『神様がうそをつく』感想(ネタバレあり)

この先は『神様がうそをつく。』最終回の内容、および結末に触れます。

父親にネグレクトされた少女と、父親を失った少年

理生の家は母親が幼いころ蒸発し、父親はアラスカのカニ漁に出かけると言ったまま何ヶ月も帰らず、家の中に大人不在な状態が続いていました。

誰が考えたっておかしな状況です。小学生の頭だってまともじゃないと気づきます。実態が明るみに出れば姉弟は施設へ連れて行かれるでしょう。

子供たちだけが暮らす家に、なつるも逃げ込みます。夏休みに予定されていたサッカー合宿をサボリ、理生と勇太と一緒に鈴村家で過ごすことになりました。

ここから始まる疑似家族的な触れ合いは互いに欠けたものを埋めていく作業であり、後に待っている悲劇への静かな助走でもあります。

なつる、理生、勇太の3人だけで過ごす誰にも言えない夏休み

サッカー部の合宿をサボリ、鈴村家に滞在するなつる。3人だけで過ごす秘密の夏休みは、なつる、理生、勇太の距離を一気に縮めます。かつて姫川の告白を「よく分かんない」と躱したなつるですが、自分が理生に惹かれていってるのを自覚します。理生もなつるに惹かれていきます。

なつると理生の小さな胸には、収まりきらないくらい大きな感情が育ってきました。

神様が嘘をつく。

そんなある日、なつる、理生、勇太の3人は地元のお祭りへ行くことになります。本当は理生の父親も参加する予定でしたが、祭りの季節には帰ると言った父親から理生への連絡はなし

楽しみに待っていた分だけ落ち込む理生を、なつるは祭りに連れ出すのです。

子供の限界を知ってなお、子供だからできることを楽しむ

なつる、勇太と浴衣で一緒に歩く理生は嬉しそうで、連れ出してよかったとなつるも安堵。

理生は父親から生活費をもらってると言いますが常にカツカツで余裕はなく、なつるも小学生の小遣いですから手持ちは多くありません。乏しい軍資金ですが、それでも縁日の屋台を楽しみます。

激しい夕立の下をご機嫌で歩く理生。なつるは浴衣が濡れてしまうよと心配しますが、理生は子供だけの特権を楽しもうと提案します。

神様が嘘をつく。

「――大人になったらさ、こんな所で濡れながら雷見てたら、おかしな人だと思われるよね。――だから今のうちに濡れていようよ」

どんなに背伸びしても、気を張っていても、しょせん彼女たちは子供です。小学生のできることはたかが知れており、大人の庇護を必要とする年齢。

大人の助けを借りずに小学生だけで暮らすなんて無理がある、いつまでも隠し通せはしないだろうことなど分かっています。それでも父親が帰ってくるまでは、自分が家を守らねばと理生は決心しています。

理生が自分は子供である現実と向き合いながら、いまは子供だからできることを楽しもうと語る姿は美しく、雨粒の煌めきを受けながら輝き、なつるを恋に落とすには十分な破壊力でした。

神様が嘘をつく。

作中屈指の名シーンで「いい最終回だった…」と言いたくもなるんですが、実はまだ全体の半分ほどが残っています。

鈴村家の秘密その2 ラズベリーの下には死体が埋まっている

お祭りから帰ったなつるは、飼っていたクワガタが死んだことに気づき、庭に埋めてやります。最後にお別れが言いたいから掘り起こしてと泣きつく勇太のために、クワガタを埋めた辺りを掘り返すなつる。

彼が見つけたのは死んで間もないクワガタではなく、白骨化した人間の遺体でした。

ここまで繰り返し、庭に秘密があると伏線を張り続けてきましたが、ついに正体を表しましたね。

誰にも言えない、秘密の夏休み。知られちゃいけない、鈴村家の秘密。

白骨遺体は理生の祖父、父親はアラスカになど行ってなかった

なつるが遺体を掘り起こした庭で、理生は数ヶ月前の鈴村家に何が起きたのか話し始めます。

いつものとおり理生、勇太、父親、祖父の4人で食卓を囲んでいたところ、急に父親が「俺はお前らのためにアラスカでカニを捕ってくる」と宣言。家を出ていく父親に追いすがる理生ですが、家族に関心を示さない父親を止めることはできません。

そうして始まった父親不在の生活。その矢先に祖父が階段から落ち亡くなってしまいます。

頼りの父親は携帯の電源を切っているのか繋がらず、途方に暮れた理生は腐り始めた祖父の遺体を庭に掘った穴へ埋めたのでした。

神様が嘘をつく。

理生は言います。父親がいないときにこんなことになったら、私たちもよくテレビで言われる「無責任な親が子供を置き去りにしたニュース」になるのかなと。どうしようもない人間でも父親だから、何にも知らない人たちに好き勝手言われたくない、自分がみんなを守らなきゃ…

父親が帰ってきたら葬式をあげて、全部ちゃんとするからと涙ながらに訴える理生。その思いは一途で切なく、美しくありながら愚かで幼い子供そのものです。

間違ってると分かってても、それしかできないとき

理生が事故死した祖父の遺体を庭に埋めていた。衝撃的な事実を受け止められず、鈴村家から逃げてしまったなつるは家に帰ります。サッカー合宿をサボったことがバレて母親に問い詰められるも、無言で部屋に引きこもり心を閉ざしてしまう。

なつるは理生とも母親とも関係を修復できないまま夏休みが終わってしまいます。

久しぶりに教室で顔を合わせたなつると理生。あの日から鈴村家には行ってないなつるですが、髪も服も薄汚れた理生の姿に依然として父親不在なんだと察します。

なつると理生の姿を夏祭りで見かけた姫川は、嫉妬から理生に嫌味を言い、聞いていたなつるは姫川を殴ってしまいました

我に返ったときは時すでに遅く、律津子は学校に呼び出され姫川の母親に平謝り。

帰り道を歩きながら、なつるに「どんな理由があっても女の子殴るなんて絶対ダメでしょ!!」と説教する律津子は、母親として夏休みを境に激変したなつるのことが心配でした。どんどんおかしな方向に進んでしまうんじゃないか、と。

その心配も親としては当然ですね。でも、なつるはなつるで、誰にも言えない秘密を抱えながら、たとえ間違ってると分かっててもそれしかできないときはどうしたら良かったんだと苦悩し、庭から白骨遺体を掘り出してしまった日から心休まりません。

神様が嘘をつく。 神様が嘘をつく。

学校で暴力事件を起こし、母親から逃げたなつる。彼が向かった先はガンで入院中の岡田コーチのもとでした。

なつるは病床の岡田コーチに「3月生まれのサッカー選手っていますか?」と尋ねます。坂井コーチに言われたことを気にしていました。岡田コーチは笑って応えます。

「自分のこと本当に信じてる人は何にだってなれるんだよ」

小さな愛の逃避行は現実に連れ戻される

祖父の遺体を庭に埋め、大人不在で子供たちだけの2人暮らししていることを周囲に隠し、私がみんなを守らなきゃと思い続けてきた理生ですが、それもこれも『父親が帰ってくるまでの期限付き』だから頑張れたこと。

夜道で父親とホステス風の女が歩いてるのを目撃し、声をかけるも「知らない子」扱いされて理生の心は折れました。

立ち上がれなくなった理生の手を引っ張り、再び走り出させたのはなつる。なつるは理生と勇太を連れ街から逃げ出します。

神様が嘘をつく。

初めて好きになった子を守ってあげたかった。彼女を責める周囲からも、間違ってると糾弾するだろう世間からも遠ざけ、どこまででも逃げてやりたかった。

名作映画『小さな恋のメロディ』は、幼いカップルがトロッコに乗って愛の逃避行に旅立つエンディングが話題を呼び、いまなお語り継がれる映画です。しかし、トロッコには永遠に乗ってられず、あの線路はどこかで途切れる。そのとき彼らはどうなるのか。

『神様がうそをつく。』では、お年玉貯金をおろした現金をかき集め、なつる、理生、勇太の3人で旅に出ました。それは辛い現実を忘れる一時の安らぎでもあります。

神様が嘘をつく。

しかし、子供の足と資金で行ける行動範囲など広くありません。海辺の街で民宿に泊まろうとしますが不審がられ、通報を受けてやって来た警官と律津子に連れ戻されてしまいます

神様がうそをつく。

信じれば何者にだってなれる、なんだってできる、それは力が湧いてくる素晴らしい言葉。だけど現実は必ずしもそうじゃない。なつるは理生と勇太のヒーローになれなかった。なつるはただの子供に過ぎず、彼の献身は大人たちの“常識的な”対応によって回収されてしまう。

なつるはガンで亡くなる前に、父親と交わした言葉を思い出します。

「なつるが母さんの言うこと聞いていい子にしていたら、神様が見ていて父さんの病気を治してくれる。だから、いい子にして待ってるんだぞ」

だけど父親のガンは治らなかった。自分はいい子じゃなかったのかと漏らすなつるに、律津子は「神様も時々は嘘をつくのよ。おまえのことが大好きだから」と涙ながらに語りかけます。

時に神様はうそをつく。優しい嘘を。その嘘に手を伸ばしながら、私たちは精いっぱい生きていく。

再会の約束は、たとえ神様のうそだとしても

警察で祖父を埋めたと証言した理生。その言葉に従い庭が掘り返され、白骨化した祖父が出てきました。マスコミは理生が想像したとおり無責任な親が子供を置き去りにした事件と報道しましたが、大衆の関心は家を空けた父親より、ひとりで祖父を庭に埋めた少女に注がれます。

自分たち家族のことを何も分かってない世間に、好き勝手なこと言われたくないと父親を守ろうとした理生。その目論見は達成されたと言えますが、ここに因果応報や勧善懲悪なスッキリする展開はなく、未熟ながらも誰かのために行動した人間ばかりが損をします

理生を悪く言う人間がいれば力づくでもやめさせようとしたことにより、なつるの評判は学校で最悪になりました。本人は気にしてない様子ですが。

理生と勇太は別な街の施設に引き取られ転校しました。民宿で引き離された日から3人は会っていません。

季節は巡り小学校の卒業式です。真新しい学ランで式に出席しようと準備するなつるに、律津子が慌てて電話を持ってきます。音信不通だった理生からの電話でした。

なつるが声変わりしてちょっと大人びたことに驚く理生。彼女は「夢でなつるがサッカー選手になるのを見たよ」と話します。きっと正夢だと思うから頑張れ、と。

そして「また会おうね」と再会の約束をして物語は閉じるのでした。

神様がうそをつく。

2人の約束が果たされる日は訪れるのか、それとも、理生の言葉も優しい嘘で終わるのか。

『神様がうそをつく。』のタイトルに相応しい最後でした。

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『神様がうそをつく。』と一緒にオススメの漫画

『山羊座の友人』原作:乙一 漫画:ミヨカワ将

松田ユウヤは平凡な高校生。ある夜、彼は同級生の若槻ナオトが血まみれの金属バット片手に徘徊している現場に遭遇し、自分をいじめていた人間に復讐してきた帰りだと告げられる。

そのまま2人は別れるはずだったが、いじめを見て見ぬふりしてきた罪悪感からユウヤは声をかけ、ナオトと共にあてのない逃避行へ繰り出す。

序盤からばら撒かれていた伏線が中盤以降に回収され、最後はミステリー的に収斂していくのが乙一らしく、ラストは怒涛の展開が待っています。

最後に

『神様がうそをつく。』は刊行当初から漫画好きの間で話題を呼び、私も当時親交あった漫画ブロガーさんのブログで知りました。読んでみろと勧められ「読みます」と答えたものの、実際にリアクションするまで5年かかったのは私の不徳の致すところです。

この漫画には無神経だったり、社会的な常識が欠けてたりする人間がしっぺ返しをくらう描写はなく、ざまあ展開が好きな人はモヤッとしたまま本を閉じることになるかも。

ここにあるのは子供たちが精いっぱい生きてる姿だったり、たとえ正しくない行いだと言われても愛しい人のために尽くす姿だったり、大人の理不尽さに翻弄されながらも全身で生きる姿です。

なつるにしても理生にしても、生きてる世界の狭さは年齢相応で、ほとんど家族と友人しか視界に入ってません。だけど11歳という年齢を考えたらそんなものでしょう。自分が11歳のとき、それ以上に広い世界を意識できましたか?

なつると理生が直接的に触れ合った時間は多くありません。サッカー合宿をサボった3日間と、逃避行に費やした1日だけ? 遺体発見後は鈴村家に行ってないはずですから。

限られた時間で互いの人生に大きな影響を与え、忘れられない記憶を残した2人ですが、なつると理生が成長した5年後くらいに再会してみてもらいたい気持ちもあります。

10代の多感な時期に過ごした5年間は彼らの世界を広げ、同じ物事でも11歳のときとは違う見え方がするでしょう。なつるはサッカーが忙しくて理生のことはときどき思い出す程度かもしれませんし、理生は自分の行いが迷惑をかけたと思い、なつるの前に姿を出しづらいかもしれません。

『神様がうそをつく。』のその後を考えるのも楽しいですね。

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