漫画

『SPY×FAMILY』で体感する主謎技感 起承転結の一歩先へ

物語の構成方法として有名なのが起承転結。小説や漫画を書いたことない人でも一度は聞いたことあるはず。小学校の作文の授業でも言われましたね。

「起承転結を意識して書きなさい」

でも、起承転結って具体的に何を書けばいいか分からない、抽象的な概念で教えるほうは楽できていいよな〜と感じたことありませんか? 何も具体的なことは言ってないのに、なんか意味あること言った雰囲気を出しやがってって。

漫画原作者として数多くの作品を世に送り出し、弟子たちもそれぞれの舞台で活躍した小池一夫さんは、起承転結を「主謎技感」と言い換えて教えていました。

まずキャラクターを起て、次に謎を追わせる

主:キャラクター
謎:リドル
技:アイデア・とんぼ返り
感:感動・感情
小池一夫のキャラクター創造論

小池さんは物語で大事なのはキャラクターである、という信念の持ち主でしたから、何を置いてもまず物語の冒頭はキャラクターを起てることが重要だと説きます。

続く承では起で起てたキャラクター(主人公)を動かします。

でも、いきなり「キャラクターを動かす」と言われても、どう動かしていいのかわかりませんね。どうすればいいのか。

ズバリ、《リドル》すなわち《謎》をキャラクターに追いかけさせればいいのです。主人公は「起」で《謎》をドッサリ持って登場します。読者にとってはわからないことだらけです。

「承」の部分では、その《謎》に向かって、主人公たちを突っ走らせていくのです。

もちろん、《謎》と言っても、インディ・ジョーンズが解き明かすような《謎》ばかりではありません。

「こんな部員も足りないヘボ野球チームを、どうやって甲子園出場にまで持っていけるんだ!?」というのも《謎》ですし、

「あの人は彼女がいるくせに、どうして私にあんなこと言ったのかしら?」というのも《謎》です。

物語の最大の《謎》は、「物語がこれからどうなるのか」「どこに向かっているのか」、目的にたどり着けるのか、というものです。
小池一夫のキャラクター創造論

鮮やかに世界を逆転させて最後は感情を動かす

謎の解決に向かって動いてきた主人公はクライマックスで強敵と対峙します。ここで負けたらすべてを失う。相手は強い。勝てるのか。そこで主人公は技を見せます。

《技》と言っても、「技術」や「必殺技」の類だけではありません。

広い意味で「手段」ということです。

「絶対に勝てない」と見えた相手に勝つための、一発逆転のカードとなる手段。ヒントとなる誰かの言葉や、読者が思いもよらない発想、主人公を勝利に導く情報や、意表をついたトリック、隠していた事実、ありえない奇策、誰も気づいていない敵の弱点。

思わぬ効果をもたらす既出のアイテム。あるいは本人の修行の成果や、決死の覚悟など。

読者を「ああっ!」と驚かし、物語を一気にひっくり返す、登場人物の持つ《技》や、《アイデア》。「気づき」をもたらす展開。
小池一夫のキャラクター創造論

最後は読者の感情を動かす。

悲しいキャラクターに同情して、涙がポロポロ流れて、「泣かされる」ことだけが感動でしょうか?

そうではありませんね。

目の前のことに興奮することも《感動》でしょう。

胸がつまって、頭の中が真っ白になって何も言えなくなることも《感動》です。

さまざまな《感情》が湧き上がってきて、心がいっぱいになることも《感動》。

いろいろな表現がありますが、ぜんぶひっくるめて、一言で言ってしまえば、《感動》とは、心が動くことです。
小池一夫のキャラクター創造論

以上が主謎技感です。この構成術を意識しながら現在ジャンプ+で大好評連載中の漫画『SPY×FAMILY』を読んでいきます。

父はスパイ、母は殺し屋、娘は超能力者

『SPY×FAMILY』第1話は黄昏のコードネームで呼ばれるスパイの活躍から始まります。

SPY×FAMILY1話

主人公が何者であるか、彼に何ができるか、その人となりをアクションのなかで描写します。

キャラクターを起たてたら次は謎の提示です。黄昏に下された次の任務は東西平和を脅かす重要人物に接触し、その動向を探ること。用心深いターゲットは子どもの学校行事以外には表舞台に顔を出しません。

そのため黄昏は「7日以内に結婚して子どもを作り、子どもを入学させてターゲットとの接点を作れ」と指示されます。

SPY×FAMILY1話

黄昏は精神科医ロイド・フォージャーと名乗り、スパイ活動のために必要な妻と子どもを探すことになります。

スパイとしての任務が成功するかという事件を縦糸に、素性を隠しながら家族になる妻子と本当の家族になれるかという人間ドラマが横糸として絡みます。

第1話は孤児院で見つけた少女アーニャとの出会いが中心です。アーニャは人の心が読める超能力者で、黄昏がスパイダと見抜き面白そうだから自分を要しに選んでくれとアピールします。

『SPY×FAMILY』の面白さの何割かはアーニャの可愛さと言っても過言ではありません。いいキャラしてます。

SPY×FAMILY1話

その後いろいろあってアーニャは敵対する組織に攫われます。理詰めで考えれば出会ったばかりの子どもなど見捨てて計画を一から練り直すほうがいい。

そう分かってるのに黄昏はアーニャを救い出しに行きます。黄昏はアーニャの姿に故郷の街が戦場になっても泣くことしかできなかった少年時代の自分を重ねます。

自分のような子どもを増やさないため、争いを終わらせるためスパイになったのだとモノローグ。アジト潜入用の変装マスクを破り捨てながら本心も曝け出されるシンクロ。それを聞いてるのはエスパーであるアーニャだけ。

SPY×FAMILY1話

このクライマックスでは黄昏がスパイとしての《技》でアーニャを助け出すと同時に、冷淡な人間に見えた黄昏の熱い想いが静かに吐露され、キャラクターに奥行きを与えます。

危機を乗り越えた黄昏とアーニャの距離は接近します。親子の触れ合いは読者の《感》情を刺激します。

最後は連載作品なので次回の引きとなる新たな謎が発生。入学試験の三者面談は必ず両親同伴でなければならず、黄昏は世を忍ぶ仮の娘に続いて、世を忍ぶ仮の妻を探さなければならなくなります。

そこで登場する母親役の女性は殺し屋。それを知ってるのは心が読めるアーニャだけ。3人は自分が持つ技能を使いながら日常に降りかかる事件を解決し、その過程で少しずつ情を深めていきます。

情報の出し方が整理されていて読みやすく、絵も綺麗で適度にクスッとするシーンや掛け合いも入れてくれるので広くオススメできる漫画です。

コメントを残す