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可愛いと毒が化学反応を起こす漫画『フロイトシュテインの双子』感想

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ホラーの名作と呼ばれる作品を見ていて、なぜか笑ってしまったり、コミカルに感じてしまったりしたことはないか。制作者は怖いシーンのつもりで作っているはずなのに、それを受け取る私は口に含んだコーラを吹き出してしまいそうになる。

優れたホラー作品は恐怖と笑い(と哀愁のスパイス)によって作られている。ホラー作品における恐怖と笑いはレオパレスの同じ棟に住む住人みたいなもので、互いに聞くとはなしに、見るとはなしにお互いを意識せざるを得ない関係なのだ。

なぜ彼らがよりにもよって隣室に手配されてしまったのかは定かでない。しかし、少なくないホラー制作者が恐怖と笑いは相性が良いと口にするし、それを裏付けるような傑作の数々が生み出されてきた。

ひよどり祥子の『死人の声をきくがよい』は傑作だ。優れたホラーの三要素が高水準で盛り込まれており、日常から始まってダイナミックに展開した物語が結末では思いもよらないところに着地する。

自分にしか見えない幼馴染みの美少女背後霊に導かれ、オカルト絡みの事件に巻き込まれながら毎回ギリギリのところで生還し続ける主人公という設定からして良い。現実では御免被りたいが、紙の上で読むなら実に好みの展開だ。

このまま『死人の声をきくがよい』の話を続けても良い。だが、今回は違う漫画の話をしたい。

うぐいす祥子『フロイトシュテインの双子』。うぐいす祥子は、ひよどり祥子の別ペンネーム。名前を多少変えたところで絵や作風のクセは変わらない。

全12巻で完結した『死人の声をきくがよい』に対して、今回ご紹介する『フロイトシュテインの双子』はコミックス1巻で完結。ひよどり祥子の作風がギュッと詰め込まれていながら、この作者を知らない読者に「これから読んでみてよ」と勧めやすい。

『フロイトシュテインの双子』あらすじ

大学生の桜井は家庭教師のバイトで怪しい洋館を訪ねる。そこにはカケルとミチルという双子の兄妹が住んでいた。母親に双子を紹介された桜井は可愛い子たちだなと思うのだが、子供たちはすぐに天使のような見た目に反した悪魔の如き所業を見せる。

双子は桜井からむしり取った髪の毛で呪いの人形を作成し、彼を自分たちの操り人形にしてしまったのだ。双子たちに身体の自由を奪われた桜井は、カケルとミチルの手違いにより窓から飛び出して車に撥ねられてしまう。

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病院のベッドの上で家庭教師はやめようと決意する桜井。そこへ片思いの相手・遠野さんが訪ねてくる。彼女の見舞いをありがたく思う桜井だったが、「廊下で子供たちに髪を抜かれた」と遠野が話したことで表情は一変。病室を飛び出して洋館に向かう。

遠野の髪の毛を返してもらう代わりに、双子の言うことを聞くことになった桜井。カケルとミチルは桜井を邪神召喚の生贄にする。魔法陣を描き、呪文を唱える双子たち。そこへ海外に行っていた父親の帰国を報せる電話が入る。

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勝手に邪神召喚なんかやったら父親に怒られる。慌てたカケルとミチルは術を途中でキャンセルしようとするが、あちらの世界に送り返せなかった邪神のカケラが残ってしまう。椅子に縛り付けられた桜井は逃げることもできず、哀れ邪神の生贄として内蔵を食われてしまうのだった。

内蔵を邪神に食われた桜井だったがベッドで目を覚ます。世界最高の黒魔術師だった双子の父親の治療を受けた桜井は、内臓の大半を失いながらも生き続けるゾンビとして蘇ったのだ。

『フロイトシュテインの双子』を読んだ感想

『フロイトシュテインの双子』は8本の中短編からなる作品集。そのなかで表題作『フロイトシュテインの双子』は、雑誌掲載作品と描き下ろしを合わせ半分の4編に登る。

単行本の中核をなす中編で私が声を大にして叫びたいのは、「カケルとミチルが可愛い!」の一言である。

双子に含まれた毒と可愛いのバランス

まぎれもなくオカルトを題材にしたホラー漫画なのだが、この作品で私が最も心に刻まれたのはカケルとミチルの可愛らしさだった。幼い双子は少年と少女の見分けがつかず、初対面の桜井を相手に入れ替わりでからかう。

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カケルとミチルが桜井のことを気に入っているのは間違いなさそうだ。間違いなさそうなのだが、その愛で方は育ってきた環境が特殊なためか常人とは一味も二味も違う。

桜井を邪神の生贄に捧げようとするのは序の口で、自分たちのせいでゾンビになってしまった桜井に新しい身体を用意したはいいが、脳を移植するため一度殺そうと毒を盛ったりする。彼らの常識では“桜井のため”なのだ。

桜井に毒を盛ろうとするときの表情がまた可愛いんだ。とてもコロっと逝くのを期待されている顔には見えない。

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桜井をゾンビと知って命を狙ってきた敵から彼を守ったときには、抱き寄せられた状態でお礼を言われ頬を染めてしまう。このときの表情も反則級に可愛い。

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ここまで大概ひどい話だったはずなのに、何もかも浄化されてしまったぞと感じる破壊力。

可愛いは七難を隠す最強の武器だ。



『フロイトシュテインの双子』は愛を題材にした作品集

掲載誌『アオハル』は青春や恋愛を題材にしたキラキラムードの作風だが、そこへ『フロイトシュテインの双子』をぶつけるのはどんな判断だと言わざるを得ない。掲載誌の読者層お構いなしに、いつものひよどり祥子だった。

修学旅行の班決めであぶれたぼっちが、人数合わせでスクールカースト上位のグループに突っ込まれ、あいつ絶対あそこじゃ馴染めないだろと思いながら見ている感覚とでも喩えようか。お前が悪いわけじゃないんだ、ただ、お前の居場所は明らかにそこじゃないだろって叫びたくなる。

それでも、ユニセックスな耽美系の双子が主要人物ならそっち方面の支持は得られたのかと思いきや、あとがきによれば連載中のアンケートは散々だったよう。お疲れ様でした。

意表を突く『アオハル』連載だったが、多少は掲載誌のカラーを意識したのか恋愛要素も入れているところが涙ぐましい。そういえば『死人の声をきくがよい』も、編集者の注文は「女の子がたくさん出てきてラノベっぽい話」だったそうな。それであれかとか言わない。

実際にできあがるものはどうあれ、雑誌や編集者が求めるものに応えようとする作者。『フロイトシュテインの双子』も人によって意見は様々だろうが、間違いなく作品のベースには“愛”が意識されている。

遠野との映画館デートに浮かれる桜井を苦々しく思っているシーンが最高。ベッドに寝転がりながらゲソを食べつつ(なんで?)、桜井について相談する美形の双子。「桜井は私たちの玩具(おもちゃ)なのに」と不満げだ。

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お気に入りの玩具を取られたことが気に入らないのか、自分たちの相手がなおざりになってるのが気に食わないのか。

そうやって読み返してみると、『フロイトシュテインの双子』は双子と桜井の間に情が通じるまでを描いた“師弟愛”の話なのではないだろうか。

多少はきれいにまとめられたかな?

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